司法書士の業務拡大

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「支援型法律家」としての司法書士の専門性・独自性
佐藤 純通 先生

司法書士を取り巻く環境の変化を教えてください

(1)現状の司法書士数と弁護士数

平成22年5月1日現在の司法書士数は19,766人、それに対して弁護士は28,811人と弁護士が9,000人ほど多く、本年中に10,000人以上多くなります。

大都市圏のうち兵庫・京都を除く6地区では、弁護士のほうが司法書士よりも多く、その他の地域では、弁護士は司法書士より少なく、弁護士を増員しても東京が激増するなど、大都市に集中しており、弁護士過疎の解消には、僅かしか寄与していません。

しかし、他方で司法書士も同様に大都市に集中しはじめており、地方24県ではここ10年間会員数は減少しています。

司法過疎は、弁護士過疎だけではなく、司法書士過疎でもあるのが現実です。

(2)司法書士と弁護士の数の推移と予測

司法試験において、合格者はここ3年間で毎年2,200人程度、一方、司法書士試験においては毎年1,000人弱程度となっております。

このまま推移していくと、2020年には弁護士が約50,000人、司法書士が約24,000人と、弁護士:司法書士=2:1という時代がくることになります。

(3)現状の司法書士の業務

全国平均で、約80%を占めるのが不動産登記・財産管理処分(不動産売買や担保権設定などが代表)、約15%が商業登記・企業法務(各種法人設立や解散・清算など)、約3%が裁判事務(債務整理や一般民事事件など)、約2%が成年後見関係(後見・補佐・補助や任意後見契約など)を業務内容としています。

個別に見ていきましょう。

<不動産登記、財産管理・処分関係>

司法書士のメイン業務になっておりました不動産登記業務は、バブル経済崩壊後の現在は減少傾向で、行政改革における登記所統廃合計画、公務員人員削減、ならびに民主党政権による国家戦略・行政刷新による政府財源確保策や地方分権構想との関連での登記制度の改革も進められようとしています。

登記申請の代理を業としてきた司法書士は、旧来の申請代理という業務形態から、不動産取引契約の前から関与し不動産取引全体の総合的な法的支援が世の中から期待され、その方向へ業務展開を始めております。

司法書士は当事者双方から委任を受けて申請代理業務を行っています。

弁護士の委任は当事者の一方からの委任で、その依頼者の利益の為に行為をしますので、登記業務における司法書士の双方代理は非常に特殊ではありますが、対立当事者の間で中立的第三者機関として重要な役割を果たすことができます。

この点が司法書士の独自性・優位性であり、他の士業では真似のできない部分です。

また、司法書士の新時代における重要な業務分野を確立すべく、附帯業務としての不動産を中心とする「財産管理・処分業務」を、組織的な取り組みをもって積極的に展開することが求められます。

司法書士法施行規則第31条第1項を根拠にできる業務になります。

<商業登記、企業法務関係>

日本には企業が約400万社あるといわれておりますが、そのうち大企業・上場企業は1%程度で、大多数は中小企業・零細企業であります。

近時、会社法の制定により大企業は法令遵守の為の制度を作成するに至っておりますが、中小企業・零細企業の多くは、機関設計をはじめ、多種の法的問題を抱える状態です。

つまり、日本のほとんどの企業には法務担当がいないのが現状です。

そこで、試験科目である商法・会社法、商業登記法に加えてその周辺知識をもって法務部門等のリーガルサポートの需要に応えていくことが期待されています。

登記関係業務を本来業務として、附帯業務としてこちらも司法書士法施行規則第31条第1項を根拠にできる業務になります。

企業法務も各々専門分野を武器に弁護士・公認会計士・税理士・行政書士・社会保険労務士等多種の士業が参入している分野です。

競争ですが、会社法・商業登記法を武器にイニシアチブは十分に取れる分野だと思います。

また、平成20年から一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行されたことにより、一般社団・財団法人の設立に注目されています。

これは、官公署の監督の下に業務を行うNPO法人よりも、その監督もなく設立手続きも一定の要件を満たせば可能であることが要因となっています。

こちらでも司法書士として登記を中心にその周辺知識をもつことで支援していくことができます。

<簡易裁判所訴訟代理関係業務、裁判事務関係>

1980年代前半、サラ金業者による過酷な取立てを苦に、自殺する人や夜逃げする人が激増し、司法書士は、破産や調停の申立書の書類作成を中心に、クレサラ被害者救済に取り組んできました。

平成14年からは、簡易裁判所の訴訟代理権を獲得し、任意整理や過払金返還請求の代理により、クレサラ被害者救済を大きく発展させました。

しかし、これらはあと数年で収束に向かうでしょう。

今後は一般民事、いわゆる生活紛争に起因する訴訟に尽力すべきだと思います。

簡易裁判所訴訟は弁護士も当然行うことができる業務です。

先述のとおり、弁護士は飛躍的に増加していることもあり、当然にこの分野にも取扱いをして来ていますので、不安をお持ちになる方もいらっしゃることでしょうが、司法書士に求められる役割が違うと考えています。

自分の事件の解決を他人に委ねるには、前提としてその他人への信頼と、その資格に対する信頼が存在しなければなりません。

弁護士にすべてを委任するよりは、司法書士の援助を受けて自ら解決に当たりたいという方も多いため、本人訴訟の困難を承知いただいた上での書面作成の受託ということもあります。

他方で、自分で直接に解決に携わらず、包括的にすべてを任せたい方にとっては、簡易裁判所訴訟でも弁護士に依頼していくことがあるでしょう。

そして、司法書士の訴訟代理は、本人中心の二人三脚型という本人の必要な部分の法的支援を行うという、当事者である本人の意向を本人が参加して実現していくことで差異が出ると思います。

つまり、市民の方々の選択肢が増え、ニーズにあった法的支援を受けることができるようになりました。

<成年後見業務>

少子高齢者社会といわれる現代において、認知症や知的障害、精神障害などの理由で、また判断能力の低下により自ら不動産や預貯金等の財産管理が出来なくなってしまう、自己に不利益な契約を結んでしまうというケースがあります。

このような判断能力の不十分な方を保護する制度として、平成12年4月に「成年後見制度」がスタートしました。

介護が必要であれば介護サービス契約の締結や施設への入所契約、その資金として不動産売却等が必要であればそれらの売買契約、不当な契約の取消、要介護認定の申請行為など、本人に代わり財産管理のみならず身上監護に関する法律事務を行うのが成年後見業務です。

本人の保護という側面はもちろん、本人の能力を活用し、自己決定権を尊重した運営が求められます。

成年後見人の担い手としては、親族というケースが多いですが、司法書士・弁護士・社会福祉士等の第三者後見人が選任されるケースが増加傾向にあり、最高裁判所発表の「成年後見関係事件の概況(平成21年度)」によると、第三者後見人選任は全体の36.5%に達しています。

第三者(士業等)後見人では、司法書士の関与が一番高く、成年後見制度スタートとともに、司法書士が逸早く組織的・積極的に取り組んだ事から他の士業と比較して高い選任件数となっているのです。

業務という側面からみますと、こちらは景気に左右されることがない分野といえます。

今後は、弁護士・税理士・行政書士などの士業も高齢者社会に向けサービスを展開して行くでしょう。

より進んでいく高齢者社会に対して成年後見だけではなく、より広い法的サービスの提供をしていくべき分野です。

(4)現状の業務への課題と業際問題

行政書士・税理士による商業登記・相続登記開放要請問題、行政書士による民事事件・家事事件等の裁判事務関係への参入問題やさらには弁護士による登記事件参入問題が出てきています。

とくに大都市を中心に既に大手法律事務所は、組織的に不動産登記業務へ参入し始めている状況です。

法曹人口増大の中、弁護士の業務の一つとして不動産取引関係は有力なビジネスとして重要な業務分野との認識を持ち始めているようです。(欧米諸国においては、法律家の業務として重要な部分を占めています。)

また、高齢化社会における相続事件の増加に伴い、遺言・遺産分割・相続登記の分野にも積極的に参入を始めています。

今後20年以上に亘り、いわゆる団塊世代の高所得層の相続が増加することは人口の変移からみて明白であり、それをビジネス契機とみる専門士業は、弁護士のみならず税理士・行政書士等の隣接士業では当たり前になっており、既に様々な対応策を取り始めています。

昔と違って、今は資格を取得してすぐ独立ということが難しい時代になりました。

日本において、資格取得で安泰という資格は無いに等しいと思います。

登記業務だけではなく、どの法律事務分野でも実体形成段階から関与してリーガルチェック等を行う予防司法はまだまだ行っている司法書士も少ない状況であり、法律家の役割としての一つとして今後の司法書士が求められる分野になると思います。

取扱う業務範囲や仕事の獲得等、本人次第ということになりますが、独立業として非常にやりがいのある専門職という魅力はあると思います。

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行政改革における登記所統廃合計画と公務員人員削減・並びに民主党政権による国家戦略・行政刷新による政府財源確保策との関連での登記制度の改革構想があると伺いましたがどのようなものなのでしょうか

<登記所統廃合促進・登記制度改革・完全オンライン化>

 昭和30年には全国2,085庁あった登記所の統廃合計画は、平成22年4月1日現在で全国462庁・公務員数約9,000人まで促進しています。

登記所統廃合自体は、国家の行政改革戦略として行政事務の合理化・効率化の視点からの改革として、オンライン化と併せて推進されてきたものであり、必ずしも国民側からの改革要請ではありませんでした。

しかし、現実としてここまで統廃合が推進されてきた以上、過去に戻り復活することはおよそあり得ないことで、法務局の登記部門を3年計画で都道府県に各1庁、合計47庁(当面は現行の法務局本局50庁)に削減されていく方向も出ております。

 既にこれは商業登記所を全国で80庁に統廃合進行しています。

以下で紹介する登記制度改革と完全オンライン申請の推進を同時に実現することで、登記所の都道府県一局集中化と大幅な人員削減することが可能となるので、国家行政改革の視点からは、商業登記所だけではなく、不動産登記所の50庁体制は、意外と早く来る可能性もあります。

この動きが司法書士へ与える影響としては、登記申請がオンライン化していることによりあまり大きなものではないと思われます。

 登記所統廃合によって、現に登記されている事項と申請された事項との整合性チェックは登記官が責任を持って行ってきました公務員も、当然削減となります。

不動産登記法を改正し、現状の登記制度の事務処理過程を簡素化することで、登記官が行っている登記の調査過程を廃止し、調査事務は民間の登記業務専門資格者(表示登記は土地家屋調査士、権利登記は司法書士)に調査権限を委譲します。

 登記の真実性を担保するために登記業務専門資格者には、登記原因の主体・客体・媒体(ヒト・モノ・カネ)の調査・確認の権限と責任を負わせることにするのです。

 実際には表示登記において土地家屋調査士に現況調査確認に基づく現況調査証明書を、権利登記において司法書士に登記原因の調査確認に基づき登記原因証明情報を作成を義務化します。

今まで登記申請代理しか行っていない司法書士が、実体形成のチェックを行うことは、本来的な法律家としての仕事でしょう。

 となれば、司法書士の職務上の義務を持って本人確認・利害関係人の確認を行い、本人確認情報の提供を義務化することにより、完全オンライン化を推進していくことができ、オンライン申請で問題になっていた添付書類をすべて司法書士の責任の下に「事実調査確認証明」で各種証明情報をすべて一体にでき、添付書類を一切不要とすることができるのです。

 倫理研修の義務化、不実登記の作出には厳格な罰則、当事者の不測な侵害担保の為に業務上の賠償責任保険の全員強制加入を義務付けることで、登記所統廃合・公務員削減の政策を推進に相反せず、司法書士の専門性・独自性を打ち出していくことが可能であると考えます。

このような次世代型登記制度に改革されると、司法書士業務もデスクワーク事務だけではなく、現場を踏まえたモノの調査確認も重要となり、面談を原則としたヒトの確認、イシの確認をすることが必須となります。

対立当事者からの双方委任を受けて申請代理をしてきた歴史を発揮していくことができれば、登記における司法書士としての優位性を築くことができるでしょう。

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司法書士業務のさらなる拡がりについて

司法書士の新時代における重要な業務分野を確立する為に、附帯業務としての不動産を中心とする「財産管理・処分業務」を、組織的な取り組みによって積極的に展開する必要性を感じています。

この業務ができることの根拠として、

(司法書士法第3条)<本来業務>

 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。 (以下省略)

(司法書士法第29条第1項第1号)

司法書士法人は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。

一 法令等に基きすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部または一部 <附帯業務>

二 簡裁訴訟代理等関係業務 <認定業務>

(司法書士法施行規則第31条第1号)

法第29条第1号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。

一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し若しくは補助する業務

二 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務

『司法書士は、本来的な業務(法第3条第1項第1号~第5号)のほか、他の士業法で独占業務として規制されていない業務について、附帯的に行うことができるし、実際にも行っている。

 本条1項1号は司法書士法人についても、本来的業務のほか、このように司法書士が行うことができる附帯業務を行うことができることを可能とする趣旨である。

司法書士が行っている附帯業務は、他の法律で規制されていない業務であり、その内容は多種多様である。

司法書士法人についても、このような司法書士が行っている多種多様の附帯業務を行うことができるようにする必要がある。

しかも、将来における司法書士法人に対するニーズの変化等に迅速かつ柔軟に対応する必要もある。

そのため、これらの附帯業務を法律に列挙するのは相当ではない。そこで、司法書士法人は、法務省令に定める業務を附帯業務として行うことができるとして、法務省令に委任している。

 法第29条第1号でいう「法令等」とは、形式的な意味の法律、行政機関によって制定される命令、最高裁判所規則、条例・規則その他地方公共団体の制定する法規、行政庁の訓令、慣習法、事実たる慣習、司法書士会の会則・会規・規則を広く含む趣旨で用いている。そのため、「法令等に基きすべての司法書士が行うことができるもの」とは、要するに自然人である司法書士が通常行っている業務を指していることになる。』

(引用:テイハン「法釈司法書士法」小林明彦・河合芳光著)

 したがって、他の法律(司法書士法並びにその省令委任事項)に別段の定めがあるところの、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し若しくは補助する業務のいわゆる財産管理業務等は、司法書士法人事務所でなくとも司法書士個人であっても、当然に司法書士の附帯業務として行える業務です。

 規則31条第2号では成年後見業務、第1号では企業法務が明文化され財産管理業務等についても司法書士を中心にして積極的な展開がはじまろうとしています。

 この附帯業務については、別に司法書士でなくともできる業務ではあります。

しかし、一部の司法書士しか取り組みができていない現状です。

これを組織的に取り組むことで、司法書士の業務に拡がりが生まれていくのです。

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これから司法書士を目指す皆さんへメッセージをお願いします

司法書士の仕事は、皆さんの努力次第でいくらでもできる魅力があります。待っていても何もないのはご存知だと思います。

しかし、この業務をやりたいと思ったら、資格がないと取り組むことができない部分がありますので、まずは資格をしっかり取得しましょう。

合格後既存の業務のみを真似してやろうと思うと、既に約20,000人の司法書士もいますし、幅は非常に狭くなると思います。

しかし、まずは社会の求める最低要求水準の業務をしっかりできるように実務を身につけた上で、ご紹介した新規の業務の開拓分野はまだまだあります。

司法書士に最も専門性があり需要の高い不動産登記関連業務は、さらなる専門性と優位性を確保する仕組みを構築していくとともに、中小企業等の企業法務支援を担い、予防司法に重点を置いた、市民生活を中心とした法的支援に積極的に関与し、幅広い「支援型法律家」を目指していただきたいと思います。

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