対人支援

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本人自立型社会のサポート
稲村厚先生

司法書士を志すきっかけは

大学(法学部)卒業後、観光雑誌の出版社に勤めておりましたが、思ったような感じでなかったこともあり仕事を辞め、転職というよりも資格を取ろうと決意しました。

勤務地だった静岡県から上京して、渋谷の司法書士事務所補助者としてアルバイト勤務します。事務処理が得意だったことのあり、仕事が認められて正社員となって3年間お世話になりました。ここで、司法書士というものをはじめて知ることになりました。

勉強を始めたのがこの時です。残業も多かったことから、その後、事務所を移籍して3年目で合格しました。

開業当初の業務は登記業務中心だったのでしょうか

昭和63年に29歳で合格し、合格から1年経った平成2年に独立しました。

補助者の時期にいろいろ不動産登記の現場を見てきたので、独立した後すぐでも不動産登記についてのノウハウは役立ちましたが、それだけでは面白くないし、折角合格して自分の好きなことができるので、不動産登記以外の商業登記や裁判事務に魅力を感じ、もっと触れたいという気持ちを持っていました。

成年後見業務によって司法書士は変化するとのことですが、どのような変化なのでしょうか

日本においては、法律家や医者はプロフェッションとされていますが、なかなか本当の意味でのプロフェッションは育っていないと思います。目を覆うべきなのが、この業務は儲かるとか登記をしてどうとか・・・本質として筋違いだと思っています。このままいくとただの専門職で終わってしまう気がするのです。これは私の研究テーマでもありますが、本当のプロフェッションというのはもっと違うレベルの存在です。現状の法律家や医者は、介護職・福祉職と違い対人援助職と呼ばれることがありませんが、人と関わる仕事であるのにどうしてそうは呼ばれないのでしょうか。それは、医者は病気を見ているし、法律家は事件を見ており、人を見ていないのです。

しかし、成年後見は司法書士業務の中で唯一人を見る業務です。これは、司法書士を変える可能性があって、多重債務問題もこの観点がもっと入ることによって、違った形になると思っています。自分のアイデンティティとしては、人間を中心に考えることが重要だという点です。このことを現在南山大学大学院でも研究しています。

裁判ウォッチング・クレサラ問題に携わった経緯を教えてください

合格した昭和63年の秋に全国青年司法書士協議会(以下:全青司)の東京研修会があり、お手伝いをしたことがきっかけで全青司の活動に興味を持ちました。登記だけではなく、やれることはすべてやろう思っていたので、全青司の活動は合格してすぐ携わってきました。

裁判ウォッチングについては、司法改革のグループに参加することになり、これが自分の人生にとって大きなものになりました。この運動は民主的な国にしたいという活動で、現在の裁判員制度成立にも一役買ったと思います。

裁判ウォッチングも独立した運動にする必要があると思っていました。ウォッチングですから、裁判を法廷で担っていない専門家の運動が必要だったので、司法書士である私が事務局を務め、市民や他の司法書士の参加を呼び掛けて広げていきました。

最終的に司法制度改革につながっていき、裁判員制度ができましたが、その背景には市民が裁判を見るというこのような活動が影響したと思っています。

司法書士も代理権を持つ時代になりましたので、これからは裁判員経験者たちが変えていくことを期待しています。

クレサラ運動の参加も平成4年にはスタートし、当時は簡易裁判所代理権もない時代でした。110番をやれば相談は非常に多かったのですが、サラ金業者も相手が司法書士ということだと黙っていませんでした。また、自己破産をするにも当時はフォーマットもなく、こちらで一から用意して、申立てから免責決定まで1件につき約2年かかっていました。しかし、今のような形式的なものだけだはなく、約2年かけてやっていくことはいいことだったと思います。

当時はクレサラ問題を司法書士が取り組むことについて司法書士の中でも賛否両論ありました。裁判ウォッチングでもそうでしたが、「司法書士だから」ではなく、司法書士というものを媒介にして日本をより民主的な国にしていきたいなと私は考えています。
たまたま司法書士という仕事をしているので、これを利用しているのです。

司法書士の魅力とは

 司法書士という仕事は、見方ひとつで広くも狭くもできる可能性があるものだと思っています。先ほどの裁判ウォッチング運動も当てはまりますね。

この仕事は人とのめぐり合いによって広がっていくというのが魅力です。今後どういった人に巡り合い、自分がどう対応していけるかでまだまだ広がっていくと思います。

2000年に設立された日本で唯一の強迫的ギャンブル(ギャンブル依存症)の回復施設「ワンデーポート」(2005年にNPO法人化)の運営委員に加わり、理事長を引き受けました。

このような施設は本人がどう生きていくかという本人中心という理念において社会参加の支援を行います。本人がどう回復していくか、その回復の過程に周りにいる人が何をしていくのかが考えられています。

これからの法律家に必要なのは本人中心という理念ということですね

今までの法律家は、本人中心ではなく私に従っていればいいという専門家中心だったのです。それはあり得ないことだと思います。特に法律家の場合は、専門家が全てを知っているわけがない。全てを知っているのはクライアント本人です。

今我々がやらなければいけないことは、本人中心で関わることだと思います。これが私のアイデンティティです。人と巡り合う為に媒介として司法書士という資格は重宝がられていいのですが、巡り合った後においては、人間として関わっていけばよく、司法書士という枠組みを最後まで持って関わらなくてもいいと思っています。

この本人中心という考え方は成年後見において必要とされており、司法書士の可能性を大きく変えてくれると思っています。対人援助職と呼ばれなかった司法書士が変わるきっかけになると期待しています。
本人中心という理念を成年後見分野だけではなく、ADRや本人訴訟、裁判業務においても単に法的解決だけではなく、メディエーション(本人中心の調停)という形でも波及してもらいたいと考えています。
この考え方によって、弁護士との違いについてももっと打ち出していくべきだと考えています。
中小企業支援にしても、組織開発(OD)の理念は本人中心の理念で全てつながっていくものであり、不動産登記を除けばこの理念は業務においても全てつながっていると思っています。

先生の今後の目標は

今は知的障害・発達障害の人達がとても生きづらい世の中になってしまっているのが現状です。本来普通に生活できる人達がストレス等で生きることに精一杯になってしまい、仕事ができなくなりパチンコ等ギャンブルしか行けなくなってしまうというケースが増えています。生きづらくなった人達へどうフォローするかがテーマです。

病的ギャンブリング問題は意思が弱いからと片付けられることがありますが、そんな単純な問題ではなく、深刻な状況です。「ワンデーポート」でも借金解決だけでなくて、生活支援から社会参画まで関わっていきたいと思っています。この活動により、今深刻な問題である自殺者が減少していくことを望んでいます。

司法書士という肩書に頼るのではなく、それを媒介にして本人自立型社会の為の支援として何ができるのかということを考えて、これから巡り合う人達と一緒に作っていきたいですね。

これから司法書士を目指す方へメッセージをお願いします

身近な相談者として先輩方が築いてきた司法書士を、ただの専門職で終わらせてはいけません。プロフェッショナルな対人援助職として、一人ひとりを大事にする法律家になってほしいと思います。

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