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企業・行政庁内で活躍する司法書士と日本組織内司法書士協会の展望
早川 将和 先生
早川 将和 先生プロフィール

企業・行政庁内で活躍する司法書士と日本組織内司法書士協会の展望

先日、設立された日本組織内司法書士協会ですが、現在はどれくらいの会員数がいらっしゃるのでしょうか?
またどういった方が所属されていらっしゃるのでしょうか?

2013年10月17日現在で、正会員36名と賛助会員9名(個人・法人合わせて)にご入会いただいています。参加メンバーとしては、企業内の方は東証一部上場クラスの大企業にお勤めの方が多いですね。部門としてはやはり法務を中心に、総務など管理系でお勤めの方が多いですが、経営企画や監査役補佐、営業系の職種などさまざまな方がいらっしゃいます。また、行政庁内においては、都道府県庁・市役所・中央省庁でお勤めの方に入会いただいています。
まだ参加人数は少ないながら、バラエティに富んだ方々にご入会いただいています。

法務ばかりでないのが意外ですね。

そうですね、やはり企業や行政庁にとって、司法書士有資格者であるということは一定以上の法律知識保有証明になりますから、法律が関連するような職務であれば、幅広くその働きを期待されるということなのだと思います。

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不動産業や銀行にお勤めの方はいらっしゃらないのでしょうか。

現時点では本協会への入会者にはいらっしゃらないですね。ただし、特にオルタナティブ投資を行う金融機関や一定規模の不動産業者では、司法書士有資格者が多数活躍しています。今後、協会の認知度が上がるにつれて、入会者も増えてくるものと思われます。

実際に企業・行政庁で働かれている皆さんは、その能力をどのように活かされているのでしょうか。

司法書士試験は、民法・会社法といった基本法をしっかり学習しなければ合格できない試験です。法務の典型的な仕事である契約審査や新規事業の立ち上げなどの場面では、その知識は直接大いに活きてきますし、法律の基本を知っているということは、財務や企画、業種によっては営業職でも強みになります。これは組織内弁護士も同じだと思います。

会員の方で司法書士登録をされているのはどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

現在の正会員36名のうち、8名が司法書士登録をしています。ただ、その内3名は外部役員などといった法人との関わり方ですので、雇用形態での勤務司法書士は5名にとどまるというのが現状です。

意外に少ないのですね。司法書士有資格者の方が登録をされないのは、
やはり登録料がかかることがネックになるのでしょうか。

登録料がかかることについてもその理由の一つと言えるでしょう。ただ、その前段階において、大きく2つの理由で登録をしない方が多いようです。
1つ目としては、そもそも登録することができないと思っている方が多いようです。確かに司法書士法20条・21条で業務の受託義務・事務所の設置義務が明記されており、それに従えば雇用関係にある中で司法書士登録はできない、というのはある意味で正しい理解だと思います。そこをクリアするためには、まず兼業という状況を会社側に認めてもらった上で、事務所を設置し、従業員を置くか電話の転送などで常に受託の体制を取っておき、受託した場合にはそれをこなす前提となる裁量労働制で働くことが必要となってきます。裁量労働制になることで、会社にいる時間帯にも司法書士としての業務を行える状況を作り出すという訳ですね。当然、会社側に断った上で業務を行います。このような状況を作り出すためには、会社の理解を得る必要がありますし、実際に登録するときには、これらを証明する書類の提出を求められます。私自身の経験で言えば、会社からの許可を受けている旨の代表印入りの書面などを司法書士会に提出しました。そういった意味では、現行制度で組織に所属しながら司法書士登録をすることは、かなりハードルが高い環境であるといえます。
2つ目としては、登録するメリットがわからない、と考えている方が多いようです。組織内で働く司法書士の方の多くは、司法書士試験に合格した後すぐに司法書士実務を経験せずに入社してしまうため、司法書士登録自体を経験しないままでいるケースが多く、そのまま登録しないという状況です。
確かに登録したことがなければ、そのメリットはわからないでしょうし、安くはない登録料の負担も相まって、二の足を踏んでしまうことと思います。

登録することによるメリットはどういったものがあるのでしょうか。

メリットは個人におけるものと法人におけるものに分かれます。
まず、個人としては、やはり非常に安価で質の良い専門研修が受けられるのが大きなメリットです。
また、登録をしなければできないこと、例えば、会務や司法書士会が主催する研修・勉強会において、同業以外にもたくさんのつながりを作ることができます。私は、東京司法書士会で企業法務研修委員をしていますが、ここで講師となる学者、弁護士や税理士などいろいろな方と交流できますし、現在いくつか取り組んでいる書籍の執筆なども、司法書士の肩書きがなければ難しかったと思います。あとは、人によるでしょうが、名刺に司法書士と書けるのもメリットと言えるでしょうね。

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やはり相当の努力を注いで合格した試験ですから、それをしっかりアピールし、行使すべきでしょう。
法人側のメリットとしては、研修などで得た知見・情報を社内にフィードバックしてもらえるということと、司法書士を社内に抱えているということ自体が企業にとってのブランディングに寄与すること、という2つの面がありますね。後者のメリットは企業によっては歓迎しないところもあるかもしれませんが、やはり法的に安心できる会社であることはどのような企業においてもプラスに働くことはあれ、マイナスにはなりません。
司法書士会においても、メリットはあります。現在、会では登録をしていない有資格者の活動実態はまったく把握できていません。これは弁護士との大きな違いですが、例えば会社法改正以来力を入れている企業・商事法務分野において、有資格者の方々はとっくの昔から最前線で活躍していたにも関わらず、まったくそれが把握できていないのは、もったいないと感じます。また、例えば、弁護士の場合は、事務所から顧問先の企業へ期間限定の出向という形で所属弁護士を企業に入れて研修させることが多いですが、現行制度では、司法書士でそれはできません。司法書士登録を抹消した上で、出向させるということは可能ですが、登録にあれだけのハードルがある訳ですから、制度上は難しいと思います。顧問先の企業を実体験することで、より企業を知った弁護士を育てることができるメリット、企業側としてもそういった弁護士がいてくれるメリットなどさまざまなメリットがある方法なのですが、同じようなことが司法書士ではできない、というのは企業法務に注力していく上で弱いと思います。

さて、そういった状況の中で早川先生が発起人の一人となって日本組織内司法書士協会を
設立されたわけですが、その経緯についてお聞かせいただければと思います。

自分自身が経験したことが設立の動機になりました。私が企業内司法書士として登録をしたのは昨年末のことなのですが、その際に非常に登録が困難であることを知り、なぜこれほどまでに厳格な要件が必要なのか考えさせられました。
やはり、要因としては、受託義務と独立性が大きな問題であり、これによって、原則として「サラリーマンは司法書士登録できない」という考えがあるからなのです。しかし、協会の活動などで、「有資格」の状況で活躍されている方々を見ていると、そういったこれまでの考え方が、登録したいと考える司法書士有資格者にとっても、社会における司法書士資格そのもののプレゼンスを表現するという意味でも非常に惜しいと感じます。
確かに受託義務や独立性の担保は重要な命題です。しかしこれは司法書士としての活躍の場を狭めなければ遵守することができないものなのかどうかを考えるべき時期に来ているのだと思います。
個人的には、受託義務は、報酬を自由化した時点で矛盾を生じてた制度となっていますし、独立性についても、倫理規定で所属組織と利益相反する代理を禁止するなどで対応ができると思っています。
そんなことを考えている時期に、現在当協会会長を務めていただいている堀江泰夫先生と知己を得る機会もあり、民間ベースでそのような活動をした旨とご協力をお願いして実現に向けて歩みだすこととなった、という経緯です。

堀江先生とは設立にあたってどのようなお話しをされたのですか。

兼業しか認められないという現状では、登録は非常に難しいです。一方で、上述した有資格者、所属組織と司法書士会の三者にそれぞれメリットがある「組織内司法書士」を認めることにはデメリットは少ないと思います。したがってまずは、組織内で活躍する有資格者の受け皿を作り、このようなメリットをアピールしながら、諸論点を研究していく必要があるだろう、というお話しをしました。また、協会の活動自体が、司法書士という資格の価値を高めることにもなるだろう、というお話しもしました。

先日の設立総会や懇親会でのこぼれ話などありましたら教えてください。

そうですね、まずはこういった場に自分たちが当事者として集ったということを皆さんが大変喜ばれていたのが印象的でした。これまではそういう場がなく、苦労して取った司法書士という資格は、入社時の履歴書に書いて以来、自分でも忘れていたという方もいらっしゃいましたが、いずれにしても、苦労をして取得した司法書士資格という共通項でさまざまな方と交流できることが大きかったようです。

今後の活動予定はどういったものをお考えですか。

2ヵ月に一回程度は勉強会を開催したいと考えています。直近では早速来月(2013年11月)初旬に実施予定です。関東での開催をメインに考えていますが、関東より西で活躍されている方も多いので、関西での開催も検討しております。
勉強会では、まずは組織内有資格者の実態把握を兼ねて、各会員自身の環境などを深堀するところから始めたいと考えています。所属している組織やその業界、その中での担当職務といった事例レポートを共有して、今後の組織内司法書士の在り様についての提言を行える下地作りをしたいという考えです。
協会内の実態把握ができてきたところで、組織内司法書士を制度化するにあたっての諸論点の研究や、他士業における組織内の状況調査・整理を行っていきたいと考えています。一定のまとめができた段階で、何らかの媒体で発表したいと考えています。
また、認知活動の一環として、会員の方には是非日本組織内司法書士協会の会員として、各法律雑誌への寄稿を検討いただきたいと思っています。
各誌に掲載してもらえるようなつながりも持っていますので、積極的に会員の皆さんに活動いただければと思います。

最後に、将来の組織内司法書士像についてのお考えをお聞かせください。

既に述べてきたことと重複してしまいますが、やはり現状の各種制約の打破をすることで、「司法書士だから○○はできない」というような状況を変えたいと思っています。司法書士として出向して企業において期間限定で働くことや、サラリーマンとして法律知識を行使することが認められるようになれば、司法書士という資格そのものの魅力も更に増すのではないかと考えています。
現在は、司法書士になるか企業に入るかは実質的にほぼ択一関係の状況です。この状況が変われば、さまざまな司法書士の在り様が生まれてくると思います。そういった意味では、「組織内司法書士であることを自由に選択できる司法書士」が、私の考える将来の組織内司法書士像ということになりますね。

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