成年後見

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成年後見と司法書士の役割
山北英仁先生

渉外法務が司法書士を志したきっかけ

私が司法書士に合格した昭和50年は、まだ国家資格になる前の認可だった時代です。昭和47年に大学を卒業したのですが、就職して企業という組織に所属するよりは、生涯勉強ができて、独立開業して社会の役に立ちたいという思いがありました。

はじめは、法律というものに興味が全くありませんでしたが、農業をしていた家に生まれた私は祖父の相続に遭遇しました。その時、父は相続の手続きを知らず挙句の果てには申告を怠ってしまい、重加算税を課されました。そこで、長男であった私は法律知識の必要性を感じました。

そして、独立開業型の職業は数多くありましたが、地域・家族・知人に対して一番人の役に立てるものが司法書士ではないかということで志すようになりました。その当時は家族の財産を守らなければという思いがきっかけになり、やがて地域・社会への貢献活動に目が向いたものと思います。

開業当初から登記業務以外の権利擁護活動等をされていたのですか

合格前、ある司法書士事務所に勤めたのですが、その事務所の先生は登記以外の業務はほとんどやっていませんでした。学生時代から社会貢献に関心があったので、仕事はするけど自分が良ければいいように見え、夢を描いて選んだ職場があまりに理想とかけ離れていました。

非常に悔しく思い、人権活動への憧れというものが増したと思います。当時、世間では司法書士と言えばやはり「登記屋」のイメージしかありませんでした。それをバネに、全国青年司法書士協議会会長だった昭和60年には、「人権元年」と称してシンポジウムを開催しました。長野県上田市において、司法書士の実態調査をはじめて実施し、司法書士への不満や期待等、市民の声を直に聞いて回り、思っていたほど司法書士が社会に溶け込んでいないことを知りました。この時は、「市民の身近」と謳いながらも、市民の身近にいないのではないかと反省しました。

また、市民教室を埼玉で実施し、これがきっかけで司法書士も事務所での業務だけでなく、消費者問題としてクレサラ運動等、外へ出て行くきっかけになったと思います。「登記屋」のイメージが少しは変えられたと思います。

しかし、原点は職業だと考えています。もちろんボランティア精神という視野を持つことも必要ですが、司法書士が職業を通じていかに社会に貢献していくことができるか(職業貢献)だということを忘れてはならないと思っています。このバランスが重要ですね。登記業務はこれからも中核的業務ではありますが、結果である登記を中心として、その前提の実体関係や周辺部分を側面から支援していく法律家を追求していくことが求められています。信託や家事事件の部分は、今後伸ばして司法書士が貢献できる領域だと思います。

フランスのノテール(公証人)は「家族の友(家族の法律顧問)」と呼ばれています。家族の法律問題は、遺言執行・相続・家のローンや建替等全てノテールが中心で動きます。付き合いが始まると代々のお付き合いになることも多く、素敵な関係性です。司法書士もノテールのようになれればと思っています。

成年後見制度導入を検討されたきっかけは

成年後見との出会いは平成6年になります。当時、不動産取引の立会にて、判断能力が低下している老夫婦の売主と出会いました。意思確認は、慣行として本人の代わりに推定相続人である息子さんが署名したのですが、この時に高齢者社会に突入していく時代に判断能力の低下した方々の財産を管理する制度の必要性を感じました。

社団法人成年後見センター構想の設立までにご苦労されたことは

平成7年に開催したシンポジウムで、成年後見制度導入の検討について言及しましたが、はじめは成年後見に対しての理解が非常に狭かったというのが印象的でした。最初は私の支援者は1人でした。

日弁連や一部の司法書士から、「人権と言いながら司法書士の為の金儲けをしている」と誤解を生じて辛かった時期もありますが、最高裁をはじめ、法務省やマスコミの方々が温かく支援してくれました。徐々に浸透して全国を巡って拠点を作れるようになりました。

私がちょうど日本司法書士会連合会理事をしていた平成6年に成年後見制度を提案し、高齢者問題担当になりましたが、年金・保険・老人ホーム等多岐にわたる問題の中から成年後見・財産管理を挙げました。周りからは「視野が狭い」と言われましたけどね(笑)。

翌年、成年後見制度創設推進委員会委員長として、人様の財産・生命と付き合うことを組織的にサポートする「社団法人成年後見センター構想」を掲げ、純粋に没頭できました。司法制度改革や介護保険の導入等の追い風もあり、平成11年1月に発起人会、同4月に発起人総会を経て、同12月に社団法人成年後見センター・リーガルサポート設立に至りました。法務省の支援もあり、成年後見制度発足による民法改正施行の平成12年4月の前から発進することができました。登記業務をはじめ裁判書類作成業務は与えられた職務ですが、はじめて成年後見業務は自分達で獲得した職務となったのです。

成年後見業務の実状を教えてください

高齢社会となった現在、認知症(約180万人)や精神障害(約303万人)、知的障害(約55万人)などの理由で、自ら不動産や預貯金等の財産管理が困難な方が増えています。判断能力の不十分な方を保護する制度として、平成12年4月に成年後見制度がスタートしました。本人に代わって財産管理のみならず身上監護に関する様々な法律事務を行うのが成年後見業務です。財産を単に管理するのではなく、本人の希望を叶える為に、有効に財産を使用することも必要です。成年後見には、サポートが必要になった時に申立てをして裁判所が選任する法定後見が大半を占めますが、本人がサポート不要な時期に契約を締結しておく任意後見があります。

成年後見人となるのは、親族がなる場合が多いですが、司法書士をはじめとする第三者後見人が選任されるケースが増加しており、最高裁発表の「成年後見関係事件の概況(平成21年度)」によると、全体の36.5%に達しています。そのうち、担い手として司法書士が一番関与している士業になっています。司法書士が積極的にいち早く取組んだことが、高い選任件数につながっています。

高齢者・障害者の権利擁護を目的として、司法書士を正会員とする全国組織「社団法人成年後見センター・リーガルサポート」を成年後見制度スタートに先駆けて設立しました。後見人としての倫理や法律・医療・福祉等幅広い後見に関する知識・技能を身につける為の研修、会員の行う後見業務の指導・監督、成年後見制度の調査・研究、普及活動を行い、助成制度として「公益信託成年後見助成基金」もでき、利用者をバックアップしています。現在、約2万人の司法書士のうち、5200人(平成22年8月16日現在)が会員として参加しており、成年後見人として司法書士が選任される割合も年々増加しています。

この会員の名簿は家庭裁判所に提出され、裁判所から依頼を受託するという仕組みになっています。また、金融機関や市町村の方からも直接依頼されることもありますし、後見人として司法書士以外の方が選任され、その監督者として関与することもあります。重大できつい仕事ではありますが、社会から期待されている魅力ある業務です。

今後、増加する後見制度の利用に対して、ケースによっては法律家である必要がない場合もあり、市町村でも研修を受けて成年後見人を養成する動きもあります。いわゆる市民後見人です。成年後見は、一部の者がやるのではなく、市民が参加し地域でやるべきと考えていますので、いい取り組みだと思います。

成年後見業務によって、司法書士に進化をもたらしました。施設や役所へのアクセスが頻繁になり、家族・地域のアクセスも強化されました。相続財産管理人の依頼増加もあり、今後は家事事件への積極的な取組みも期待されています。

成年後見制度を利用できない方への民事信託も検討されているようですね

成年後見は、判断能力が低下した方への財産管理支援になりますが、判断能力のある方々には適用できないのが実状です。しかし、判断能力のある方でも、例えば浪費癖や身体障害をお持ちの方、足腰が弱くなり銀行へ行けない方、消費者被害にあう方等、何らかの事情で財産管理が必要な方が大勢いらっしゃいます。そこで浮上するのが財産管理制度としての信託です。

現行法では、受託者は株式会社であることが要件ですので法改正も必要ですが、そのような場合に信託という手続を活用することで、司法書士が信託監督人や受益者代理人になるなど、側面から支援するというフィールドがあると考えています。

成年後見で一層地域に根差した司法書士の家事事件への関与について

平成14年の附帯決議によって盛り込まれましたが、家事事件の代理権を司法書士は現在持っていません。しかし、活躍のフィールドは広がりを見せ始めており、成年後見・相続・不在者財産管理人・相続財産管理人・遺言執行者等、司法書士法施行規則31条の現行法で行えることを粛々とやっていくことが必要だと感じています。

そうなれば、司法書士には何故家事代理権がないのかと社会から言われるようになると思いますので、日々家族や地域への貢献の為に頑張っていくことだと思います。

これから司法書士を目指す方へのメッセージをお願いします

我々は「生成中の法律家」です。日本の法律家制度はいまだ流動的であり、枠組みは固定されていません。自分達でできるものを開拓し自己改革を遂げ、市民の生活や権利を守る職能となることが期待されています。司法書士は決して他に吸収されることのない「日本独自の文化」です。その中で家族・地域のいろいろな所にきちんと根差し、現状に満足せず常に努力し、切磋琢磨していきましょう。

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