事務所の業務の中で、知財評価の割合は2割くらいで、出願や係争関係を含めたものが8割くらいです。主要分野は特許と商標です。
知財評価について、相当興味を持っていただいて、問い合わせを多く頂いています。実際に弊所のデータを利用いただいている企業もいます。これから知財評価の重要性がより認知されれば、これからさらに増えていくと思います。知財評価は、企業経営や事業方針を考える上で、新しいテクノロジーといえます。例えば、経営に必要な情報の種類は、技術関係や財務関係、営業関係など多岐にわたります。そこに知財評価に関する情報を導入することでより戦略的な経営をすることができます。 これまで、知財の価値評価の定量化・指数化の重要性を認識されていたにもかかわらず活用できていませんでした。もし特許力を指数化でき、新しい企業経営のツールとして利用できるなら、その手法を活用するという傾向になってきています。
文字通り「知財を評価する」という意味ですが、具体的にはいろんな種類があります。広い意味での知財評価は、従来されていた鑑定も含まれます。鑑定は、特許の有効性や特許権侵害の有無の調査結果ですので、例えば、ある特許に無効の可能性があれば、その企業にとって知財の価値が下がるということを、間接的に知ることができるようになります。しかし、弊所が採用している知財評価はこれまで誰も行ってきていないものも含まれています。具体的には、
【1】特許がどのくらい企業収益を稼ぐことができるか、を指数化するためのYKS手法です。これまで、こういったことを指数化している手法がありませんでした。
【2】特許の価値を貨幣単位で数量化する方法として、一般的には、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカムアプローチ(収益還元法)、といった、従来からなされている手法があります。コストアプローチは、従来から使われていました。マーケット・アプローチは、これまであまり使われなかったです。インカムアプローチ(収益還元法)は、弁理士会や税理士・公認会計士が昔から利用している手法です。
そのなかでDCF法(ディスカウントキャッシュフロー)を利用して、弊事務所が開発した手法がPQ手法です
これまで、知財の価値を指数化することがほとんど行われていませんでした。また、仮に指数化したとしても、経済学的な証明がされておらず、企業経営に役立つかというと不十分でした。例えば、潜在的に高い価値の特許があっても、その価値が証明されてなかったので、経営者の財務的観点から知財の価値を知りたいという要求を満たしませんでした。
その点を克服して証明された経済的側面からの初めての指数化手法が弊事務所の手法です。
受験を決意した時にまで遡ります。ある小説の登場人物に、情報を売買する人が描かれていました。当時、メーカーに勤務していた私には、物の売買しか考えていませんでしたが、情報を売買するという発想にはっとしました。
良く考えるとお金を払ってでもほしい情報もあります。その小説では、インフォメーション=公開されてしまったら無価値となる情報、インテリジェンス=それ自体が価値を有する情報という区別がされていました。この情報を売買するという職業を知り、公開されても価値を失わないものとして身近に特許があることに気づきました。
現在、知的財産・無形資産と呼ばれているものは本来財産的に取り扱われるべきであるのに、不動産や商品(動産)のような市場がなく、何故市場がないかと考えるようになりました。
日本では特許出願数や特許権の数が相当数あるにもかかわらず、その市場がないということは、社会が成熟するにつれて取引される商品の数と種類は増え、市場が形成されるものですから、財産の中で唯一未だに市場の形成されていない特許が最後のフロンティアになると思いました。いつか必ず社会が成熟する、本当に特許が財産権として扱われる時が来ると思いました。それに携わる仕事として弁理士があったわけです。それで、弁理士になることを決意しました。
知財の価値が指数化できた点と、その証明により経済的な意味を持つようになった点が、これまでと異なっています。そして、知財評価の一つの手段として確立できたことが成功の要因と思います。
これは、特許の稼ぐ力を指数化するものです。まず、特許の価値を計るために着目したのが、特許の独占排他力です。独占排他力とは、簡単に言えば、自社の事業に自由を与え、他者の事業を制限するものです。その目的がある特許により達成された場合、自社は収益を増加させ、他社は収益を減少することになります。これは、企業の根本命題である収益に繋がる重要な事項です。
企業は収益を減少させたくないから、当然、他社の独占的状態が成立するのを避けようとしたり 既にある独占的状態を解消しようとしたりします。
それらの活動は、競合他社の特許権に対して起こすアクションに現れてきます。具体的には、権利化前であれば、情報提供をしたり閲覧請求をしたり、権利化後であれば、無効審判をしたり、裁判をしたりします。このアクションの頻度が高くなれば その特許は、競合他社に事業の制限を与えているといえます。つまり、特許の独占力が高く、かつ意味のある独占であるからその特許の効力を制限をするためにアクションがたくさん起こるのです。これを特許権者の側から見ると、その特許は他社の事業の自由度を奪っているものであり、他社の収益を阻害し、逆に自社の収益に寄与していることになります。
これを着眼点として、特許の価値を指数化することにしました。そのために、単純にアクションの数を足し算してもよいのですが、企業は経済原理で動くので、その特許の成立を阻止したり、その特許を無効とすることにコストをかければかけるほど、その特許を脅威に感じていることがわかります。つまり、その特許に価値があるということがいえます。アクションに投入されたコストを計算すると、経済原理の中で動く企業の特許に対して感じている脅威度合いの状態を捉えることができると考えたわけです。そこで、このコストを計算することにより求められた数値がYK値です。
企業での経験から直感的に思っていただけでしたが、それが徐々に進化していき、このYKS手法が確立しました。
ディスカウントキャッシュフローを現す基本式として、分子側にキャッシュフローの途絶えるリスクによる割引項を入れ、分母側に一般的にはキャッシュフロー、特に特許を利用した事業キャッシュフローを配置し、分数の全体に特許の寄与率を表す係数をかける式が用いられます。
例えば、将来1万円を貰う約束をした場合に、その約束が履行されない可能性を考慮すると、現時点で1万円の価値はありません。なぜなら、将来に履行されないというのリスクがあるからです。また、金のなる木があった場合、これを一体いくらで買うか?という問題があります。その木は枯れるかもしれないし、3年後は実が育たないかもしれません。そして、仮にそれが5年間保証されている場合、一体いくらになるのかという問題を考えた場合、将来発生するキャッシュフローをそのリスクに応じて、割り引いて現在価値とするのがDCF法(ディスカウントキャッシュフロー)です。
基本的なDCF法では、α(割引率)は、将来キャッシュフローが途絶える確率よって定められる、事業のリスクを意味します。ここで、特許の場合、二重のリスクが存在します。それは、発明が陳腐化したり無効になったりして無価値になる場合とそもそも事業がダメになる場合です。前者の特許固有のリスクをプレミアムリスクβとして考慮したDCF法を考え出しました。さらに、そのリスクを考慮するだけでは分子との関係でバランスが取れないので、分子を事業が生み出すキャッシュフローから特許が生み出すキャッシュフローに変更したものがPQ法です。
一応完成したものですので、より使いやすい仕組みに改良していきたいです。今後はこの手法を応用して、金融関係の分野にも使えるようにしていきたいです。
海外でも知財評価は盛んに行われています。日本では特許訴訟は年間200~300件ですが、知財の活用が活発に行われている米国では月1,000件程度の訴訟があるようです。さらに知財を証券化して上場するという手法が行われています。そこでは知財評価は重要な役割を果たします。
知財評価の手法をより進化させていき、最終的には社会の経済的ひずみを埋めていくことと思います。
これから益々、知財は重要になってきます。そこではクリエイティブな仕事をする弁理士が求められています。ビジネスの中で、正しいと言われている答えは、実はクリエイトされているのです。つまり、答えが作られているのです。そういった積み重ねが社会の発展に繋がっていきます。また、日常の出来事に「何故だろう?」という疑問を持ち、社会の仕組みを知ろうとする姿勢が大切です。