価値の高い権利を創出

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新たな手法で新たな業務を生み出す
龍華明裕先生

特許(知財)業界の現状について

不況の影響により総出願数が減り、特許事務所の業界(特許業界)は苦しんでいます。先生はこの特許業界をどのように捉えられていらっしゃいますか。

特許出願の件数と単価が減少し、企業では出願の内作が進み、特許業界はトリプルパンチを受けています。ただ特許業界の中にも多様なニーズがあり、ニーズ毎に異なる小さなマーケットが存在します。特許業界は全体としては縮小していますが、その中には成長している小さなマーケットもあります。業界でのシェアが高い企業は業界全体の動きに強く影響されます。しかしシェアが小さい企業は、必ずしも業界全体の動きに影響されません。成長をしている小さなマーケットの流れを捉えることが重要だと思います。

企業の特許に対する見方・価値観は変わっていることをお感じになりますか。

そうですね。年を追う毎に、価値の高い発明や特許に対するニーズが高まり、逆に価値の低い発明を出願することを避けるようになっています。これに伴い、発明の価値を高めることのできる特許事務所が高く評価されるようになっています。これらを評価するためには、発明の価値を判断するスキルが必要ですが、そのようなスキルも企業内で着実に高まりつつあります。これらの傾向は今後も変わらないでしょう。

政府は知財の重要性に鑑みて近年いろいろな政策を打ち出していますが、あまり効果が上がっていないという声もあります。今後は、どのような知財政策が求められるとお考えですか。

知財政策については、いろいろな人が異なる意見を出しているので、どの意見を重視すべきかを考えることが困難です。現在、「知財の価値を高めなければならない」ということは、社会の共通認識です。ところが具体論になると意見が分かれます。例えば、損害賠償の額を引き上げるべきか、自分で物を生産しない企業体が特許によって成長することが是か非かとなると意見が分かれます。

これらついて「誰の意見を聞くべきか」を考るためには「目標は何か」から考える必要があります。例えば、知財によって新たな企業を生み出し・保護し・成長させることを目的とするなら、これから新たに成長しようとするベンチャーの意見を聞く必要があります。かつて米国では知財が強化された後で、ベンチャーが強くなり それに投資するベンチャーキャピタルが発達しました。これはベンチャーであっても知財で事業を守ることができたからです。そのためベンチャーキャピタルもベンチャーに賭けることができ、多くの企業が生まれ、米国の産業を活性化しました。

反対に、既存の企業を新たな参入企業から守ることを目的と考えた場合は、大手企業の意見を聞くことが大切です。ところが大手企業と新しい企業の意見は、具体論では対立します。例えば日本の大手企業は一般に、特許侵害訴訟で認められる損害賠償額が高まることに否定的です。これは損害賠償額を支払うリスクを嫌うからです。逆に技術ベンチャー企業は、損害賠償額が高まることを望んでいます。これは、販売力等に劣るベンチャー企業が自分たちを守るためには、特許が強化されることが必須だからです。

このように知財強化が何を目的としているのかを、根本から考え直さないといけないと思います。結論から言えば、現在の日本では特許訴訟で認められる損害賠償の額が低過ぎ、知財に投資しても、それによって新しい事業を守り育てることが米国と比較して困難です。このため米国と比較して産業構造の変化が遅く、ひいては大手企業の判断を遅延させています。この問題については、誰かが日本の未来の絵をクリアに描き、それをクリアに伝えることが必要だと思います。

RYUKA国際特許事務所について

多くの特許事務所が苦しんでいる中、貴事務所は年々業績を伸ばされています。他の特許事務所と違う取り組みをしている結果だと思いますが、どのようなことをされていますか。

私達の事務所では技術についてディスカッションする力を大切にしています。発明は課題を解決する手段ですが、どういった課題があるか、その課題はどのような場面で生じるか、課題を解決するために他にどのような方法があるか等をディスカッションをすると、発明はどんどん進化します。そして技術者から提案された発明と、進化した多様な発明を一件の明細書で同時に出願します。

技術について十分にディスカッションをすることなく、提案された発明をそのまま特許出願すると、いくら出願してもキリがありません。またそのような特許は、置き換え可能な他の方法によって容易に回避されてしまいます。

つまり一件の特許出願の価値が小さいことになります。 技術についてディスカッションをすることで、付加価値の高い特許出願をすることができます。

業務の担当の仕方にも特長があります。RYUKA国際特許事務所では発明の提案を伺う前から特許を取得するまで、個々の発明を複数の所員が担当します。そして所員間でも、発明についてディスカッションを重ねます。このようなことが他の事務所を異なる点だと思います。

知財業務では対外国との業務が非常に重要となりますが、その点で、特に注力されている事項を教え頂きたいとと思います。

私達は、まず米国を大切にしています。裁判で認められる損害賠償の額によって特許の価値は大きく変わります。米国の特許訴訟で認められる損害賠償額は非常に大きいので、日本企業にとっても米国特許は重要です。しかし米国で最も優秀な弁護士は訴訟や会社法の代理を好む場合が多いので、出願の代理をする米国弁護士の業務品質は、かなりばらついています。そこでRYUKA国際特許事務所では米国弁理士を採用し、日本と米国の特許庁へ直接に特許を出願しています。米国出願も複数名が担当し、多様なディスカッションを重ねます。これにより米国で取得できる権利の品質が高まり、同時に出願コストを下げることができました。

また中国弁理士を採用し、中国の審査官や他の国の弁理士とも密接にディスカッションをしながら業務を進めています。各国の弁理士に指示を送り、その後の手続を現地の弁理士に任せるという従来の方法では、有効な権利を取得し損ねる場合があります。諸外国に出願を指示する日本の弁理士が、諸外国における個々の手続を深く理解し最終的な責任を持つ必要があります。ここでも、各国の弁理士と自由に意見を交換し議論するディスカッション力が必要です。

特許(知財)業界の今後について

弁理士は依頼を受けて「出願の代理」を行っていればいいという時代は終焉したというのが、多くの人の共通認識だと思います。今後、クライアントはどのような付加価値を持った弁理士・特許事務所を選ぶようになるとお考えですか。

やはり、技術をディスカッションする力が大切です。この力があれば、未完成な提案からでも発明を完成させることができるので特許出願の時期が格段に早まります。これは広い権利を取る上で重要です。最近は世界中で同時に同じ事を考えるようになってきているので、早く特許出願することが、これまでより重要になっています。従来は1年、2年の差が問題になりましたが、最近では1月、2月の差が明暗を分けるようになりました。1週間、2週間の場合もあります。このため私たちの仕事にもスピードが求められるようになりました。スピードを明細書の作成に求めることも大切ですが、早い時期に発明を具体的に考える支援をすることが、より大切です。

製品化に必要な具体化と特許を取るための具体化は異なります。特許を出願するためには、製品やその試作品が完成している必要はありません。むしろ試作品の完成を待つと、その間に他人に同様の発明を出願されてしまいます。このため試作品等を作る前に、机上で発明を検討できるディスカッション力が必要になっています。

ディスカッション能力を高めるために何をすれば良いのでしょうか。

実際にディスカッションを重ねることが大切です。教科書の勉強だけでは身につきません。ディスカッション能力にはいくつかの要素があり、まず論理的な思考力が必要です。つぎに、お客さんの前でその思考力を発揮し、会話をリードする対人的な強さが必要になります。しかし一方的に話してもディスカッションは成立しません。お客様である技術者に多様なアイデアを話してもらうためには、それを引き出すコミュニケーション力も必要です。思考力だけなら教科書で鍛えることもできるかもしれないですが、それだけでは対人的な強さやコミュニケーション力を習得することはできません。

だから実戦が一番です。お客さま、あるいは所内の先輩などと技術的なディスカッションを重ねる必要があります。このため私達は案件を複数名で担当することで、所内でも日々技術的なディスカッションを重ねています。

今後の弁理士像

これから弁理士を目指される方に、メッセージをお願いします。

私は弁理士試験に一度落ち、再チャレンジをしました。今から思うとそれが良かったと思います。それのおかげで必死に勉強をして、知識を増やすだけでなく論理的な思考力を高めることができました。

現在、この業界は厳しいと言われています。しかし環境のネガティブな面を考えることより、自分が過去と比べてどれだけ成長したか、自分の思考力あるいは戦略的な思考の仕方がどれだけ成長しているかが決定的に重要だと思います。資格にチャレンジして学ぶということは非常に価値が高いことです。思考力が高まれば 就職先も自然に広がります。

例えば、米国の弁護士は、必ずしも皆が法律家になるのではなく、会社の経営者や政治家になったりもします。そこで彼らが強みとして持つのは、弁護士になるために得た論理的思考力なのです。その意味で、何よりも、必死に勉強することをお勧めしたいです。がんばってください。応援しています。

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