もともと日本の特許出願数は非常に多かったのです。これは、これまで企業が特許の数を重視し、発明者は社内評価を上げるため、多くの特許出願を行っていたことが一つの原因です。つまり、他社と同じ発明を出願したり、事業化する予定のないものまで出願したりしていました。また、権利化後は維持年金を支払う必要があり非常にコストが掛かっていました。
近年の経済状況から企業の意識が変わりつつあり、無駄な出願を減らし、重要な発明は重点的に出願していこうという傾向になってきました。このため、国内出願の件数が減少しつつありますが、外国出願に関してはむしろ増加の傾向にあります。したがって、国内出願を主業務とする特許事務所はダメージが大きくなり、反対に外国出願に強い事務所は、その特徴を生かすという結果となりつつあります。この出願件数の変容は本来あるべき姿であると思います。
さらに、特許事務所は、大事務所と零細事務所に二極分化していると思います。大事務所はそのスケールメリットを生かし、また、世界中の事務所とのネットワークを駆使して、あらゆる分野の出願に対応しています。依頼件数が多くなるので、事務所の経営状態は良くなります。しかし、大事務所はスケールが大きいゆえに、デメリットをかかえることもあります。例えば、分業化が著しくなり、チェック体制が甘くなることがあり、そうすると仕事のクオリティが低くなることがあります。
反対に、零細事務所は、対応分野が狭く、短期間にボリュームのある仕事はこなせないといった不利はありますが、例えばバイオに強いとか、中国出願なら誰にも負けないといった専門分野をもつことにより、一人事務所でも経営できています。この場合、少人数の専門家がその責任で仕事するので、仕事のクオリティが高くなります。
企業の知財に対する意識はだいぶ変わってきました。「知財は事業を強くするツール」と意識するようになり、その活動範囲がグローバルになってきました。
例えば、どこの国で出願するかを決めるには、自社の製品をどこで売っていくか、コンペチターはどこにいるか等、事業の戦略に沿って考えねばなりません。特許の侵害者を徹底的に排除するのか、あるいは、ライセンスを許諾してオープンイノベーションが有利と見るのか、まさに企業の命運を左右します。
昔は「コストセンター」と言われてきた知財部が、「プロフィットセンター」になることを求められるようになりました。
一言で言うなら、クライアントの「知財の活用」をサポートする業務です。
主な業務内容は次の通りです。
(なるべくプロジェクトの初期の段階からチームに入れてもらいます。)
(英文契約書も当然に対応します。意外と大企業であっても英文契約の交渉経験がなかったりします)
具体的に最近扱った案件としては、
他には
等があります。
「他人と同じことはやりたくない」という自分の性格がルーツとしてあります(笑)。それと、企業で働いていたときに、知財の訴訟や契約交渉で、日本企業がアメリカ企業にコテンパンにしてやられる姿をみて、自分が日本企業を何とか救いたいという思いがありました。「大和魂」っていうやつですかねー。
この仕事は、いわば「知財の総合芸術」のような仕事です。特許や法律の知識だけではつとまりません。
ビジネスセンス、語学力、契約書やレターのドラフティング能力、クライアントの技術や事業の理解、交渉相手の人格や文化の理解、各国の法制度の検討等が必要となってきます。相手との何ヶ月にもわたる熾烈な交渉を経て、その妥協の産物が契約書です。そこには、ポーカーゲームのような戦略が必要になってきます。将来のメリットやデメリットを考慮しながら、相手との読み比べ、知恵比べです。ひとつとして同じ内容の案件はなく、いつもユニークで、ダイナミックな仕事です。
ストレスを感じることも多いですが、仕事を成功させたときの達成感は、とてもすばらしいものです。
一番大変だったことは、弁理士の仕事として認知してもらうことです。一般の方にとって弁理士の主な業務は特許出願と意識しがちなので、無料セミナーを開催して多くの人に知ってもらうことにしました。この営業開拓・プロモーション活動が大変でしたね。
しかし、自分が企業にいた頃に、この分野の専門家がいなく困ったことがあったので、需要があるはずと思っていました。
日本企業と欧米企業とでは全く違います。アメリカでは、訴訟することはビジネスのワンステップと考えます。「言った者の勝ち」というか、がんがん攻めた後で、着地点はどこかという発想です。また、アメリカ人は論理的な人種なので、こちらの言い分を主張するときは、なるほどと思う理由を付けて主張すべきです。筋道の通った主張ならば、あっさり通ったりすることがあります。
一口に欧米といっても、アメリカ人の考えと、ドイツ人の考え、フランス人の考えは異なってきますので、交渉相手に合わせてスタイルを変えていきます。
反対に日本企業は、伝統的に争いごとが嫌いだし、物事をはっきりさせずに「グレー」のまま置いておくのが「美徳」という場面も多いですね。論理性がなくても、「泣き落とし」とか、トラブルになれば社長が頭を下げて解決するとか。これはこれで日本方式なので、交渉相手が日本人ならそのスタイルに合わせていきます。
何かひとつでよいから誰にも負けないもの、「この弁理士にしか任せられない」といったコア領域を持っている弁理士は強みがあります。
特定の技術の知識でもよいし、語学力や営業力でも良いと思います。そして、自分のできることを基礎にして、その次のことに1つずつチャレンジしていくことが大切です。また、過去に色々な社会経験を積んでいる弁理士は、クライアントに対するアドバイスにも「幅」と「深み」が出ますから、重宝がられると思います。あと、弁理士はサービス業です。サービス精神の旺盛な方は成功できると思いますよ。
弁理士資格は知財の世界へのパスポートのようなもの。その世界はまだまだ未熟で未開拓な部分が残っています。そこで何をするか、資格をどう利用するかは自分次第です。どんどん元気のよい方がこの世界に飛び込んできてほしいです。一緒に業界を盛り上げていきましょう!